2020-05-14
玉小石のこと
今年も皇室でのご養蚕が始まりました。雅子皇后の令和のご養蚕です。今年はコロナウイルスの影響で、ご養蚕の繭の品種は、純国産種の「小石丸」のみになるようです。いつもなら紅葉山ご養蚕所でのご様子が新聞に掲載されるのですが、今年はマスクを付けた雅子様の車中のお顔でした。
「小石丸」は、良質で輝きのある、繊細な糸を吐く品種の愛らしいピーナツ型の繭です。けれどもその繊細さゆえの取り扱いの難しさから、次第に品種改良された扱いやすい大型の繭が主流になり、昭和のころにはほとんど飼育されないようになっていました。皇室でも平成になった時に飼育の中止が検討されましたが、美智子様のご英断で引き継がれてきた経緯があります。
今年はその小石丸のみのご養蚕ということで、改めて美智子様のご判断の偉大さを感じます。
私が養蚕農家さんにお願いしている繭は「玉小石」といいます。これは小石丸を親とし、「玉繭」という双子の繭を作りやすい品種の繭です。
「玉繭」は2頭の蚕さんの糸が絡み合って一つの繭を作るので、糸にしたときに節(ふし)ができます。その節が引っ掛かりやすく扱いにくいので通常は玉繭は敬遠されるのですが、実はその節が糸や生地に温かみのある表情を生み出すのです。節に空気を多く含む、玉繭の座繰り糸・手織り布は本当に暖かいのです。
そんなわけで私は、温かみのある「玉繭」と美しく輝く「小石丸」の性質を併せ持つ「玉小石」という品種をお願いしているのです。
もうすぐ「玉小石」の養蚕も始まります。桑の生育もずっと心配していましたが順調なようです。新緑が眩しいあたりの景色と、雅子様のご養蚕の儀のニュースに、静かにどきどきが高まっています。
玉小石単繭 撮影 藤田順一様