2021-08-25
ものがたる布
ご存命であれば齢90を超えるであろう女性たちの、着物を見せて頂く機会をいただいた。
普段使いの着物が多く残っており、傷み方や繕い具合から、その着用シーンや性格を想像するのは楽しかった。数ある中で目を引いたのは、手引き糸を手織りで織ったと思われる布だ。軽さしなやかさにはっとする。
奉書紬は無地が多かったようだ。
一見変哲もない黒の無地であったり、表地ではなく裏地に使われていることもあるようだ。
模様のない、だけど手の跡のある、この無地の裏布を眺めそっと触り、この布の来し方を思う。当たり前に蚕を養い糸を引き布を織り、そんな布を大切に纏い暮らす、そんな時代があったのだ。